ある晴れた日に 番外編 -オタクの神様-

 神様っていると思う? 幸せと不幸せってバランスがあると思う?

 さて、震災はあっても日々は続いていく。津波で実家が完全に流されてしまった宮城出身の友人と私は、震災のせいで初日が遅れたとある演目を一緒に見に行く予定だった。あれは2011年4月中旬。震災があっても私たちは芸能オタだ。チケットがあれば現場には行かねばならない(実際には震災で行けなくなった公演もあったのだけど)。

 彼女にとっては震災後初のオタ現場。

 公演直前、バタバタしていて発券できていなかった彼女が発券したチケットは最前どセンターでした。

 キャパシティ3000人以上のホールで最前センターって! ちょっとでも芸能オタをかじったことがある人ならわかるだろう。その最前センターがどんだけ価値のあるものか。

 オタクの神様っているんだねえ、と笑った彼女は公演中、最前センターで泣いてたよ。そりゃそうだよ。泣くよ。私も最前センター隣のおこぼれ預かって、別に泣く演目じゃないのにちょっと泣いたよ。エンタテイメントのあるべき姿について泣いたよ。

 生まれ育った自宅が完全に流されて、それのプラス分が最前センターかよ、そんなのバランス取れてないだろと言うのもわかる。でも、私たちは芸能オタクで、芸能オタクであるからには、最前センターは至上の幸福で、すさまじい不幸のあとにやってきた幸福をちょっとした偶然では片付けられない。そして不幸は笑い飛ばすしかないのだ。笑い飛ばす力をくれるのがエンタテイメントなんだ。

 2011年、SMAPが『NHK プロフェッショナル 仕事の流儀に登場したときの言葉を私は今でも強く覚えている。「エンタテイメントの力を信じている」と。私はこの言葉にどれだけ励まされたことか。そしてエンタテイメントにどれだけ励まされたことか。

 あのとき私は普段はあまりほほえんではくれないオタクの神様に心から感謝したのだった。

 オタクの神様ありがとう。